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わ~い、こんな懐かしいものが見つかりました! 美内すずえ「銀色のデュエット」。別冊マーガレットに掲載されたときの表紙です。
タイトルからすると、オペラ関連というか音楽のマンガのようですが、実はフィギュアスケートの話です。思い出しましたが、 ---------------------------- というわけで、美内すずえ「銀色のデュエット」についてです。公式サイトの情報によると、この作品は花とゆめコミックス「美内すずえ傑作選3 日本列島一万年」に収録されているそうですが、現在は入手困難とのこと。初版が1979年ですからねえ。といいますか、別冊マーガレットに掲載されたのはさらに古く、「日本列島一万年」が1971年、「銀色のデュエット」が1970年なんですが。 「白いトロイカ」ほど古いわけじゃないから、興味のある人は買って読んでもらえばいいなと思ったのですが、それが難しいということなので、どんなお話だったか、頑張って説明を試みてみます。冒頭でリンクした表紙には、こんなふうに書いてありますね。 <勝て、母国のために! そして、愛のために! フィギュアスケートひとすじに生きた少女の感動巨編。> さらに、あちこち飛び回ったところ、こんな紹介文を掲載しているファンサイトもありました。 <フィギュアスケート選手権のためにシベールとケントは亡命先からユラミスに帰国し、高度な技「デス・スパイラル」を演じようとする。> そうそう、そんな話でした。だんだん記憶が鮮明になってきました。「兄妹」という言葉はどちらにも出てこないし、「愛のために!」だし、やはり兄妹ではなかったのかな。兄妹ではないというセンで、これらの紹介文を補っていきます。 ---------------------------- 上記のように、この作品の主人公はシベール(♀)とケント(♂)。2人は幼い頃、ユラミスという国からアメリカ(みたいな国)へ亡命します。ユラミスは、ナチス・ドイツ(みたいな国)に侵攻され、併合されたヨーロッパの小国、という感じです。実際、ヒトラーのような総統もちょっとだけ登場します。 亡命先の国で、2人はよそ者として、いじめられたり仲間はずれにされたりしますが、そんな2人を支えたのがフィギュアスケートでした。2人はペアを組み、しだいに上達していきます。そして、ついにフィギュアスケート選手権に出場できることになったのですが、その開催地は、なんと母国ユラミス。亡命した2人が母国に帰るのは、大きな危険を伴います。しかし、2人はどうしても出場し、その試合で優勝して、ナチス・ドイツ(みたいな国)の軍事政権下で苦しむ母国の人たちを勇気づけたいと願いました。 とはいえ、危険をおかして出場したとしても、そう簡単に優勝はできません。そこで、シベールは「デス・スパイラル」という高度な技に挑戦することにしました。この技を演技に組み込めれば、優勝も夢ではありません(この「デス・スパイラル」については後述します。ひとまず、あなたのよく知っているデス・スパイラルとは別物だと思っておいてくださいませ)。 練習に練習を重ね、シベールはデス・スパイラルを滑るのに成功します。そして、2人はいよいよ試合のためにユラミスへと向かうのでした。亡命者である2人が試合のために帰国するかもしれないことは、ナチス(みたいな政府)側にも知られており、2人が入国したら身柄を拘束しようと、警戒を強めていました。ユラミスに入国するために、2人は偽名を使って兄妹を装いますが(←たぶん、これで記憶が混乱したのです)、荷物の中のスケート靴が見つかり、正体がばれてしまいます。空港から逃げ出す2人。なんとか逃げのびて試合会場にたどり着きますが、リンクに出たら、たとえ演技はできても、終了後に逮捕されてしまうに違いありません。 それでも滑ることを決意し、2人はリンクに出て行きます。ところが、政府側に妨害され、演技のための音楽が流れません。音楽なしでは演技ができない! 2人はとっさの判断で、かつてユラミスの国歌だった歌を歌いながら演技を始めます。会場に湧き起こるざわめき。ナチス・ドイツ(みたいな国)に併合されて以来、かつての国歌が歌われる機会は失われていたし、歌おうものなら逮捕されかねないような状態でした。しかし、2人の歌う国歌に励まされ、会場の人たちは1人、また1人と、一緒に歌い出します。やがて、会場全体が歌声に包まれる中、シベールはデス・スパイラルに成功。大きな拍手のうちに演技を終えました。 最終的に2人が優勝したかどうかは、実はよく覚えていません。たぶん優勝したのだと思いますが、ユラミスの人たちを勇気づけるという目的は果たしたわけだから(そして、読者としては、会場が一体となった時点ですでに一種のカタルシスを得ているわけだから)、試合の結果はさして重要ではないように思います。 試合後、憲兵たちが2人を逮捕しようとします。しかし、2人の演技と勇気ある行動に心を動かされたヒトラー(のような総統)が、2人を見逃してくれるのでした。(おしまい) ------------------------------ 美内すずえらしい、ストーリー性の高い作品だったと思います。「演技しながら歌えるのか」とか、「急に曲を変更したら、演技内容に支障が出るのでは」とかという類のツッコミは、まあ置いといてもいいのでは。 さて、ここで問題の「デス・スパイラル」についてです。デス・スパイラルというのは普通、こちらの動画のような技を指しますよね。しかしながら、美内作品におけるデス・スパイラルは違っていました。では、どんな技だったかというと、ペアでありながら1人で行う技で、「通常のスパイラルとは逆の姿勢で行うスパイラル」というような説明がされていたと思います。 逆の姿勢とは? つまり、通常のスパイラルというと、基本的にはこんな感じの姿勢ですよね。これの逆なんです。今回、スパイラルについて調べていたら、「通常のスパイラルは、お腹が下。デス・スパイラルは、背中が下」と説明されているサイトもありましたが、まさにその説明の通り。 美内作品のデス・スパイラルは、背中を下(お腹を上)にして片足を上げ、そのままの姿勢を保って滑るという技でした。ビジュアル的には、上記でご紹介した動画のデス・スパイラルで女性が取っている姿勢を、男性の補助なしに取り、スパイラルのように氷上を進んでいく、というもの。あまりきれいだとは思わないですけど、バランスを取るのが難しそうで、「高度な技」だという説明は子供心にたいへん納得できました。 では、なぜ美内すずえは、本来の(私たちがよく知っている)デス・スパイラルとは違うものをデス・スパイラルとして描いたのか? 美内すずえは、ちゃんと調べずに適当なことを描くというタイプの作家ではないと思うんです。そこで、次のように推測してみました。といっても、私はフィギュアスケートの技の歴史にくわしいわけではないので、もしかしたら見当違い(あるいは逆に言わずもがな)のことかもしれないんですが…。 私の推測はこうです。この作品が発表された1970年(札幌オリンピックの2年前)当時、今の私たちがよく知っているペアのデス・スパイラルという技は、まだ存在しなかったのではないでしょうか。代わりに、美内すずえが描いたような技がデス・スパイラルと呼ばれ、概念としては存在するものの、難しすぎて実際にやれる人はほとんどいない、という状態にあったのでは。 ところが、あるとき(想像としては70年代半ば)誰かが、「ペアの男性が補助してやれば、デス・スパイラルは簡単にできるじゃないか」ということに気がついたわけですよ。でも、仰向けの体勢で、パートナーに引っ張られて氷上を進むというだけでは、技として今ひとつ面白くない。それで、男性の周囲をぐるぐる回す、という今のようなかたちになったのでは。 このように考えると、「スパイラル」と「デス・スパイラル」の関係もすっきりするように思えます。だって、腰より高く足を上げて氷上を滑っていく技が「スパイラル」であるのに対して(螺旋状に滑っていく、という意味でしょうかね?)、ちっともスパイラルと似たところのない、女性をぐるぐる回す技が「デス・スパイラル」と呼ばれているのは、どうも統一性に欠けるように思うんです。上記のような推移があったのだと考えれば、納得しやすいのですが、どうでしょう? もしも技の歴史にくわしい方がご覧になっていたら、ぜひぜひご教示いただきたいです。真相はいかに? ------------------------------ (おまけ) 「銀色のデュエット」が掲載された別冊マーガレットの表紙です。1970年1月号。「銀色のデュエット」は、右側に4つ並んだ絵のうちのいちばん上ですね。 (←これね、これ) おっと、左側には「アタックNo.1」が…。どうやらテレビで放映していた時期で、関連記事が掲載されていたようです。
by noma-igarashi
| 2006-07-16 16:38
| フィギュアスケート
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