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111.31KV620日記


オペラ、フィギュアを中心に、そのとき興味のあることがらを話題にしています。
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連作「いちばん高い塔の歌」 2003年作

グライダーの写る絵はがき何枚もポストをくぐりまちを出てゆく

望遠鏡で風を眺めるさわさわと五月の樹々の葉がゆれている

笑いながら並んで走る先頭のあいつと周回遅れの僕が

ビリヤード場の裏手で錆びてゆく大西洋を見てきた自転車

このまちでいちばん高い塔からは十年先の自分が見える

かつて母の白いドレスを着たこともある仕立て屋の古い人台

祝祭にきた一頭の象のこと語り継がれる広場のカフェに

落ちてくる雲のしずくと庭先で交歓している僕のTシャツ

ランボーの黄ばんだ詩集のページ裂き紙飛行機をつくって飛ばせ

脱出せよ、脱出せよと体内を巡り続けている海の声

グラスからアップルサイダー溢れ出しつかのま波が寄せるテーブル

楽器ケース抱える旅のひとびとはツバメの群れのように身軽に

うつくしい影絵をつくる指先をもつ恋人に会いたい月夜

このまちの白い日傘がいっせいに空を飛ぶ日をあしたと呼ぼう

絵はがきの返事に代えて今日まちに海のほうからくる渡り鳥



「短歌ヴァーサス」第2号(風媒社、2003年10月15日発行)に掲載
by noma-igarashi | 2014-09-21 23:58 | 題詠100参加作品 | Trackback | Comments(0)
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